たった今卒業証書を授与された夙川中学校の皆さん、ご卒業おめでとうございます。皆さんはこの3年間の様々な出来事に思いを巡らせていることでしょう。一人ひとりが個性に溢れ、元気で明るい、素敵な学年でした。数多くの悪戯も反抗もされましたが、総ては皆さんが大人になるために通過するべき必要な出来事だったと思います。
保護者の皆様、子どもさんのご卒業を心よりお祝い申し上げます。立派に成長されたお姿をご覧になり、誇らしく思っておられることと拝察いたします。保護者の皆様のご理解とご協力なくしては夙川中学校の教育は成立しませんでした。心より感謝を申し上げます。ありがとうございました。
さて、卒業生の皆さん、皆さんは大きな環境の変化を経験された、最初で最後の記念すべき卒業生としてこの先、夙川中学校の歴史に残っていかれることと思います。大きな変化とはなにか。まず、校舎が移転したことです。苦楽園の広大な敷地からポートアイランドへ。そして、一昨年、そのポートアイランドの港を臨むモダンな校舎から、丘の上のクラシックな校舎へ変わりました。教育面においても宗教教育がなくなり、TMPMの導入。学校の方針も新しく打ち立てられました。最初は戸惑いもあったかもしれません。でも皆さんはたくましく、柔軟に、これらの変化に対応していらっしゃいました。
そして、最後の一年は新型コロナ感染拡大による緊急事態宣言の発出に伴うWeb授業の実施。授業形態も大きく変わりました。特にこの一年は怒涛の如く押し寄せてくる変化への対応に終始した一年でした。私たちは何が正解なのか分からない中、私たちの頭で考えた「みんなにとっていいこと」を実践してきました。すべてが初めて経験することばかりでした。クラスメイトや先生たちと直接関わることができない期間に学んだことは知識だけではなかったと思います。
自分たちの頭で何をするのかを考えること。人との関わりの中で私たちは生活していること。つまり、私たちはお互いに支え合って生きていることを学んだ機会でした。
時間と場所を共有した仲間たちとの数えきれない経験とともに、皆さんはこれからそれぞれの道を行かれます。それぞれの道は皆さんが自分自身でお決めになった道です。その道には困難や苦しみも待ち受けているかもしれません。でも自分にとってベストな、一番いい判断とは、たとえ間違っていようと失敗しようと、自分自身で決めることだと私は考えます。そこには、学びと未来と希望があります。みなさんどうぞ、困難と苦しみを果敢に乗り切っていってください。
苦しみや困難に出会い、先が見えなくなった時にどうするか。何をどのように決めるのか、少しだけお話させてください。私はどうしているか。私は父が言っていたことばを参考にしています。
父は大正生まれでした。戦争に行き、母艦の偵察機に乗っていました。偵察飛行中、敵機がやってくると、雲の中を飛んで母艦に戻ってきていたらしいのですが、雲の中では当然のことながら、前が見えず、自分がどこを目指してどこを飛んでいるのかわからなくなります。その時父はどうしたかというと「こちらにいけばいい」という直感に従ったということでした。直感に従う。その直感はいつも正しく、母艦に帰還できたそうです。
私はこの話を聞き、「直感に従う」という言葉に大変勇気づけられました。先が見えない時や、どうすればいいのか判断がつかない時に、無根拠な確信をもって内なる声に従うことがよくあります。それがあってもいいと思います。不謹慎に聞こえるかもしれませんが、直感に委ねる判断があってもいいと思っています。人との関係においてもそのようです。これから皆さんは今まで出会ったことがない全くちがう文化、社会性、考え方をもった人たちとの出会いがあるでしょう。彼らとどのように折り合っていくのか。そしてその人たちとの関係についてどういう選択を迫られることがあるかもしれません。彼らに近づくのか、遠ざかるのか、一緒にやっていくのか。これ以上近づき彼らを理解し受け入れるとなると、それまでの自分自身が保てなくなる。どうするのか。
私は自分の直感を信じていいと思います。人との関係を計るものは理性だけではありません。損得だけではありません。直感に従うこと。それはつまり、自分自身の経験、知識、知恵、すべてを総動員して出す答えではないかと思います。自分の直感を信じることは、自分自身を信じることだと思います。皆さん、自分自身を信じて、この先に出会うかもしれない困難を乗り切っていっていただきたく思います。
皆さんのこれから先のご活躍を応援しています。どうぞお元気で。
2021年3月20日 中学校校長 西 泰子