今日、ここに入学式を迎えられた皆さんは、今日から3年後の卒業式の時、卒業アルバムに自分の写真がどのように写っていると思いますか。自分の目指した志望校にめでたく合格をして満足をしている姿。あるいは、友達と楽しく学校生活を送って満面の笑みを浮かべて写っている姿。どのような姿で卒業アルバムに写っていたいですか。写真に写っている姿、あるいは写っていたい姿を思い浮かべながら自分のなりたい自分を今想像してみてください。今しばらく、時間をとってなりたい自分を思ってほしいのです。考えてみてください。
須磨学園が一番大切だと考えていることは試験の偏差値をあげることではありません。一流大学への進学だけではありません。その後の一流会社への就職でもありません。須磨学園が一番大切だと考えていることは、一人ひとりが、その人その人の「なりたい自分になる」ということです。どうしたら「なりたい自分」になれるのか。どのような「なりたい自分」を自分の目標に持てばよいのでしょうか。人は、たとえ一卵性双生児であっても違います。人は千差万別であります。一人ひとりが違っていて、それが当然なのです。ですから、一人ひとり自由自在に自分にあうように「なりたい自分」を自分でデザインするところからすべては始まります。具体的にどのようにデザインをするかということについて、須磨学園の教育方針と関連させてお話をしてみます。
須磨学園の教育方針を一言で言えば、勉学だけでなく、勉学によって身につけ、育んだ一人ひとりの「専門性」と「人間性」と「国際性」によって、よき社会人として、社会や国や世界に貢献し、将来の仕事を通して、自分のライフスタイルを確立し、ライフスタイルそのものを自分自身が楽しむ。そういう人を創っていくことであります。よき社会人にとって、「楽しさ」ということと「温かさ」ということが大切です。学生時代が勉強だけで終わってしまうとしたらどうでしょうか。社会に出て、自分のしてきた勉強が全く何の役にも立たず、社会に何も貢献できなく、おまけに高校時代、自分自身はちっとも楽しくなかったとしたらどうでしょう。最悪です。そんな高校時代は嫌でしょ。専門性を身につけるということは、たとえば科学の勉強を通して社会に貢献するということだけでなく、自らも科学を楽しむということを忘れないでほしいのです。国際性を身につけるということは、たとえば英語を学び、そしてそれを通して社会に貢献することはもちろん大切ですが、それと同時に、自分自身が英語を楽しむということをぜひ忘れないで欲しいのです。
人間性をということを考えてゆくと、それはいつも「心」ということに行き当たります。では、我々は心をどう持てばいいのでしょうか。99歳で亡くなった、私の人生の先生である中山素平さんという日本の誇る銀行家の方がいらっしゃいました。その中山さんに私が直接いただいた言葉があります。私の一番好きな言葉です。「心を広く、心を高く、心を深く、そして、心を温かく」という言葉です。皆さんにこの言葉を贈ります。皆さん、どうか広く、高く、深い人になってください。それと同時に、温かい人にもなってください。
こういったことを頭において、これからの学校生活で「なりたい自分」を探し、「なりたい自分になる」ことを成績がちょっとくらい悪くても、字が下手でも、ガラスを割っても、自分に自信が無くても、そんなことにとらわれないで遠慮せずに、どんどん自分をデザインしていってください。こんなことを言う学校は、私の知る限り、日本では須磨学園だけです。
これは、保護者の皆様にお願いです。お子様が話される進学や将来への希望について、どんなことであっても、どうか、積極的に、徹底的に、肯定的に、温かく励まして差し上げていただきたいのです。「それはいいね」「やってみたら」「できるよ」「大丈夫」「やりなさい」「いけいけ」保護者のそういう力強い言葉を聞くだけで、子供たちは心の底から勇気が、元気が湧いてくるような気がするに違いありません。須磨学園の学園長をしながら、東京大学の学部と大学院で教員をしている私が今あるのは、私のことを徹底的に信じて励ましてくれた父と母のお陰です。理事長も私も、須磨学園の教員・職員全員が君達の一人ひとりをサポートします。君達の一人ひとりを応援します。君達の一人ひとりを守ります。
さあ、夢に日付を入れましょう。そうすれば、夢は「人生の目標」になります。その目標を目指して、一緒に、楽しく歩んでいきましょう。皆さんの健闘を心から祈ります。
2021年4月3日 学園長 西 和彦