桜の花は皆さんの入学を待ちきれずに咲いてしまいました。夙川中学校5期生の皆さん、私たちは皆さんの入学を歓迎しております。おめでとうございます。

 保護者の皆様、ご子息、ご息女のご入学おめでとうございます。これからの6年間、保護者の皆様のご理解とご協力なくしては、夙川中学校の教育は成立いたしません。どうぞよろしくお願いいたします。

 ご来賓ならびに関係者の皆様、ご多忙の中、子供たちの入学を祝うためにご臨席を賜りましたこと、厚く御礼を申し上げます。どうぞこれからも生徒たちを見守ってやってください。

 さて、新入生の皆さん、この中で今日入学式に来る準備を自分でして来た人、いらっしゃいますか。挙手はいりません。中学生になるにあたって私が皆さんにお伝えしたいこと、4点申し上げます。

 1つ目は、皆さんの「自立」です。自分で立つと書く「自立」です。今から始まる中学校生活の中で、自分の身の回りのことは自分ですることを求めます。今まで皆さんが受験勉強で忙しいとき、身の回りのことをほとんどすべてお家の方がやってくださったのではないでしょうか。塾から帰ってきてテーブルの前に座ると温かいご飯が出てきた。お風呂も沸いていた。皆さんはご飯を食べるだけ、お風呂に入るだけ。皆さんは勉強だけをしていればそれでよかった日々を過ごしてきた方が多いのではないでしょうか。しかし、中学生になった今日からは変わってください。自分のことを自分でするように心がけてください。この時期を逃すと、大人になってから困ります。研修旅行もあります。研修旅行のときに一人ひとり先生が皆さんの横についてお世話をしてくれるわけではありません。自分の荷物は自分で詰める。学校に行く準備は自分できちんとできるようにしっかりと準備をしてください。

 2つ目です。当たり前のことを当たり前にできることを求めます。例えば、挨拶をするとかルールを守るとか人の話をきちんと聞くとかです。中学生活は集団生活です。集団生活に大切なことは皆がルールを守るということです。ルールを守らない人がいると集団生活というのは成り立ちにくくなりますので、皆で守っていきましょう。

 3つ目は、主体的に学ぶということです。皆さんは恵まれた環境にいらっしゃると思います。だから与えられることに慣れておられます。これは私たち大人の責任でもあると思います。私たちが皆さんに多くのものを色々なものを与えすぎてしまう。皆さんに教えすぎてしまって皆さんが自分たちで自ら掴みにいく学びを実践しづらくなっているのではないか、と懸念しています。最近、自分から学ぼうとしない生徒たちが増えてきたな、という印象を持っています。皆さん教えてもらうだけでは不十分です。やらされる学びからくるものは、さほど大きく多くありません。受け身の学びから能動的な学び主体的な学びを実践していきましょう。自ら学んで知識を掴み取っていくことがどれほど貴重なことなのか。それを皆さんこれから知ることになると思います。

 極端な話をします。明日、もしかすると南海トラフ災害がやってくるかもしれません。皆さんその時、どうしますか。先生の言うとおりにしますか。先生が周りにいたらいいです。学校だったらいいです。お家でご両親と一緒だったらいいです。皆さんが一人で通学路を歩いているとき、地震がやってきたらどうしますか。自分で決めなければいけません。自分で考えないといけません。そういうときにどうするのか、ということを考えることができる、判断することができる人が素晴らしいと思います。ほとんどの人はその場面に遭遇してないから分からない。経験してないから分からない。教えてもらっていないから知らない。専門的な知識がないので分かるはずもない、と思われるかもしれません。

 今回のコロナパンデミックでも何が正解だったのか、私たちはどうすればよかったのか、私たちはこれからどうするのか、それすらたぶん正解は分かっていません。まだ結果は出ていないわけです。
 前例のない問題とか今まで遭遇したことのない事態、想像もしたことのない道具製品が目の前に現れたとき、残念ながら私たちは対応できません。なぜでしょう。それは私たちがただ机に向かって知識を得るだけの学びを実践してきたからかもしれません。机に向かって学ぶ、机に向かって得た知識は、知識を得ることができてきてもそれだけでは不十分です。そんなときにどうするのか。それはやってみることです。経験してみることです。実践してみることです。それが知識に勝る皆さんの力となっていくと、私は確信しています。人から与えられたことを、やらされることだけをやるのではなくて、自分がやりたいこと、自分が必要だと思うこと、自分が面白そうだと思うことをぜひこの中学生になった今から見つけて、実践してみてください。実際にやってみてください。
 皆さんはそのことから多くのことを学ばれると思います。失敗することも数多くあると思います。でも全然大丈夫です。この守られた環境の中にいる今こそ失敗するときです。大人になってからの失敗は、大きなダメージを喰らいますけれども、子どものときの失敗というのは皆さんの力になります。皆さんが失敗したら言いに来てください。「よかったね。今失敗して」と私は答えると思います。

 4つ目の話をします。それは相手の立場になって物事を考える、ということです。この中学校の3年間、高校の3年間も皆さんにとってとても大切な時期です。皆さんの人となりが固まっていく時期です。この中で大切なことは自分自身の心は自分だけでは育たないということです。人との関係性の中で人との関わりの中で自分の心は育っていくと思います。どうすれば良い関係を作ることができるのかそれを皆さんに考えて実践してもらいたいと思います。

 一番のヒントは相手の立場に立って物事を考えるということです。自分がされたら嫌なことは相手にしないという人はたくさんいらっしゃると思います。自分がされたら嬉しいことを相手にもしようと思っている人たちがたくさんいらっしゃると思います。でもそれだけでは実は不十分です。人はそれぞれの価値観を持っています。自分がされて嬉しいことは、相手がされたら嬉しいのかというと嬉しくない場合もあります。相手の立場に立たないと、自分の言葉であったり行動であったり、それは相手にとって良いことなのか悪いことなのか相手は嬉しいのか嬉しくないのか、わかりません。では、どうすればいいのか。必要なことは想像力をはたらかせることです。相手はこういうことを言われるとどう思うだろう。じゃあ相手を喜ばせたいとき自分はどういう言葉をかければいいのか、ということを考えてみてください。こんなことを言われると相手は悲しいだろう。そういうことを考えて人との関係を築いていただきたいと思います。そうすることが人と人との深い関係を作っていくことになると思います。

 皆さんのこれからの中学校生活が、そして6年間が密度の濃い素晴らしい時間になることを応援しています。一緒に頑張っていきましょう。

2023年4月8日 理事長 西 泰子